大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

大阪地方裁判所 昭和61年(ワ)7499号 判決

原告

脇川盛夫

右訴訟代理人弁護士

鈴木康隆

右訴訟復代理人弁護士

坂田宗彦

被告

安威川生コンクリート工業株式会社

右代表者代表取締役

田中一郎

右訴訟代理人弁護士

万代彰郎

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  原告が被告の従業員であることを確認する。

2  被告は原告に対し昭和六〇年一一月二八日以降一か月につき金三四万一一二一円の割合による金員を支払え。

3  訴訟費用は被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

主文と同旨

第二当事者の主張

一  請求原因

1  原告は、昭和五三年三月二五日被告と労働契約を締結し、ミキサー車の運転手として稼働してきた。

2  しかるに、被告は、同六〇年一一月二七日原告に対し解雇の意思表示をなし、同日以降原告の就労を拒否し、もって自己の責に帰すべき事由により原告の就労を不能に帰せしめた。

3  原告の右解雇時における賃金は一か月につき平均三四万一一二一円であった。

4  よって、原告は被告に対し、労働契約に基づき、従業員たる地位の確認を求めると共に、原告の就労が不能となった日の翌日である同六〇年一一月二八日以降毎月三四万一一二一円の割合による賃金の支払いを求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1の事実は認める。

2  請求原因2の事実のうち、被告は、昭和六〇年一一月二七日付けで原告を解雇し、原告の就労を拒否していることは認めるが、その余は否認する。

3  請求原因3の事実は認める。但し、右平均賃金額は残業手当をも含む。

三  抗弁(懲戒解雇)

1  懲戒解雇の意思表示

被告は同六〇年一一月二七日原告に対し、別紙記載の就業規則、二一条、二三条、五二条及び五三条に基づき懲戒解雇の意思表示をした(以下「本件解雇」という)。

2  本件解雇理由の存在

(一) 原告は同六〇年一〇月七日から同年一一月二七日まで欠勤した。被告担当者は、同六〇年一〇月七日原告の家人から「身体の具合が悪いので休む」との連絡を受けた際、同人に対し診断書の提出を指示し、その後も再三にわたり原告に対し診断書の提出を促したが、原告は、同年一一月二七日に至るまで、診断書を提出しないばかりか、欠勤理由の詳細を明らかにせず、治療見込についても何らの連絡をしないまま経過した。

(二) 被告は、原告が理由の詳細や回復の目処を明らかにしないで欠勤を続けるため、毎日臨時のミキサー車運転手を手配しなければならず、会社業務に重大な支障をきたした。

(三) 原告は、右(二)の事実及び診断書提出義務を定めた就業規則二五条の内容を充分知悉しながら、故意に診断書を提出しなかった。

四  抗弁に対する認否及び主張

1  抗弁1の事実は認める。

2  同2(一)の事実のうち、原告が欠勤したこと、原告の妻が同六〇年一〇月七日被告に対し、原告は急病のため欠勤する旨の電話連絡をしたこと、その後、同月一六日までの間に二回程、被告から原告の妻に対して原告の病状を尋ねる電話があったことは認めるが、その余は否認する。

原告の妻は同月七日午前七時ころ被告資材課長宮内政明に対し、原告が急病のため近くの病院に入院したので欠勤する旨を連絡し、原告の欠勤理由を当初から明らかにしている。また、原告は同年一一月一日ころ被告に対し、中村病院及び多田病院発行の診断書三通を郵送した。

3  同2(二)、(三)の事実は否認する。

五  再抗弁

1  事前協議条項違反

(一) 原告の加入する運輸一般労働組合関西地区生コン支部(以下、「本件組合」という)が同五五年四月二八日被告と締結した労働協約(以下「本件労働協約」という)には、被告は、移(ママ)動、転勤、配置換、出向、降格、一時帰休、休業、解雇など現行の労働条件を変更する時は、本件組合と誠意を持って交渉し、一致点を見つけるよう努力する、旨が定められている。

(二) しかるに、被告は、本件解雇にあたり、本件組合及び同組合茨木統合分会安威川班に対し、協議の申入れをしなかった。

2  不当労働行為

本件解雇は、原告が本件組合に加入し、活発な組合活動を行っていたことを嫌忌してなされたものであり、労働組合法七条一号に該当する不当労働行為である。

(一) 被告の従業員約二八名中、本件組合に所属する組合員は原告を含め一九名、全日本建設運輸連帯労働組合に所属する組合員は五名であった。

(二)(1) 原告が被告に入社した当時、被告従業員は企業内組合を組織していたが、原告は、入社後まもなく、本件組合に所属して活動していた唯一の組合員に説得されて本件組合に加入し、当初は非公然で活動していた。

(2) 被告は、原告の右活動を嫌悪し、同五三年七月ころ、余剰人員が生じたことを理由として原告を解雇したが、本件組合による解雇撤回闘争の結果、同年一一月ころ、右解雇を撤回し、原告は職場に復帰した。そのころ被告の従業員の大半が本件組合に加入した。

(3) 原告は、同五四年四月から同五六年末まで、本件組合の所属する運輸一般労働組合大阪地方本部の三島ブロック組織拡大担当者となり、主として生コン会社に働く労働者に対して、右組合への加入を働きかけて活動を行ってきた。

(4) 被告は、本件組合が昭和五七年一一月に行った時限ストライキに対する報復として、本件組合員に仕事を与えず、同年末の一時金及び賃金を全く支払わず、右金員の仮払いを認めた仮処分決定がなされた後も右支払いをせず、財産の隠匿をはかり、右仮処分決定の執行はほぼ不能となった。続いて被告は、昭和五八年一月から四月までロックアウトを行った。

(5) 本件組合は同五八年一〇月分裂したが、被告は、本件組合の組合員三名を、ユニオン・ショップ協定に反するとして解雇し、右組合員三名の地位を保全する仮処分決定の後もその職場復帰を認めなかった。そこで、本件組合は右三名の職場復帰のため様々な要求抗議行動を展開し、その結果、被告は同五九年九月ころ漸く右職場復帰を認めた。

(6) 原告は右のとおり本件組合の組合員として、他の組合員と共に積極的に組合活動を推進、実行してきた。

六  再抗弁に対する認否

全て否認する。

なお、懲戒解雇は、被告の専権事項であるから、本件労働協約による事前協議の対象とはならない。

七  再々抗弁(労働協約の一方的破棄)

被告は昭和五九年八月一日本件組合に対し本件労働協約を破棄する旨の意思表示をした。

八  再々抗弁に対する認否

否認する。

第三証拠(略)

理由

一  請求原因1及び抗弁1(本件解雇の意思表示)の各事実は当事者間に争いがない。

二  そこで、抗弁2(解雇理由の存在)につき判断する。

1(一)  まず、抗弁2(一)の事実について判断するに、右事実中、原告が昭和六〇年一〇月七日から同年一一月二七日まで欠勤したこと、原告の妻が同年一〇月七日被告に対し電話で、原告が急病のため欠勤する旨連絡したこと、その後、同月一六日までの間二回程被告から原告の妻に対して電話連絡(内容はさておく)があったことは当事者間に争いがない。

(二)  そして、右事実に成立に争いのない(証拠略)並びに原告本人尋問の結果(但し、後記認定に反する部分を除く)を総合すれば、原告は同年一〇月七日早朝、腹部に激痛を覚え、救急車で近くの中村病院に運び込まれ入院したこと、そこで、原告の妻常子は同日の始業前被告に電話し、応待(ママ)に出た資材課長宮内政明に対して、原告は体の具合が悪いので欠勤する旨連絡したところ、宮内課長は、診断書を提出するよう指示し、同月九日、一一日及び一八日にも同女に対し電話で原告の診断書の提出を指示したが、同女は原告の診断書を提出せず、かつ原告の病状、欠勤理由の詳細を明らかにしなかったこと、原告は、腹痛、急性胃腸炎等により右中村病院に同月一六日まで入院したが、退院後も同病院に通院していたこと、同月一七日に多田病院神経内科で受診し、自律神経失調症により一か月間の休業加療を要する見込との診断を受けたこと、被告は、原告が診断書を提出しなかったため、本件組合安威川班西川書記長らに対し原告の病状を尋ねたところ、同書記長は原告の妻に対して、「原告がいつごろ出勤できるのか会社から問い合わせがあったので、診断書を出していないのであればすぐ出すように」と電話で助言し、同女は原告にその旨を伝えたことが認められる。

(三)  そこで、原告が、同年一一月一日ころ、被告に対し診断書を郵送したか否かについて検討する。

原告は、同年一一月一日ころ被告に診断書三通を郵送したと供述する。

しかし、(証拠略)並びに原告本人尋問の結果(但し、後記認定に反する部分を除く)によれば、原告は、同年二月二五日にも妻を通じて休むとの電話連絡をした後、同年三月一一日まで理由を明らかにしないまま欠勤し続け、出勤後の態度が悪かったこともあって、同月一一日付け及び同月一八日付けで各五日間の出勤停止処分を受けたが、原告において同月二七日付けで、今後正常な就労を充分心がける旨の書面を被告に提出して、問題の決着がついたことがあること、被告は原告に対し、昭和六〇年一一月一一日付けで、書留内容証明郵便により、診断書の提出並びに欠勤理由及び欠勤予定期間を明らかにするよう求めているが、右は被告において原告から診断書の提出を受けていないことを裏付けること、また、原告は、被告から右郵便物が配達されていることを知りつつ、受取りを拒否する意思で郵便局に取りに行かず、右郵便物は保管期間経過により被告に返送されているが原告が既に被告に診断書を郵送しているのであれば、右郵便物の受領を拒否する合理的理由はないこと、更に、前掲(証拠略)及び原告本人尋問の結果によれば、原告は、同年一〇月一六日及び二三日中村病院で、同月一七日多田病院で、それぞれ診断書の交付を受けたことが認められるが、これを直ちに被告に送付せず、同年一一月一日になり漸く郵送したというのは不自然であること、以上の理由から、右原告の供述は措信し難いものといわざるを得ず、他に原告の主張を裏付ける証拠もない。

(四)  以上の説示、(証拠略)によれば、被告は、原告の同年一〇月七日以降の欠勤について、原告の診断書を受けとっていないこと、原告は、右同日の妻による連絡以外には、同年一一月二七日まで、被告に対し、何ら連絡をしないまま欠勤し続けたことが認められる。

2  (証拠略)によれば、抗弁2(二)の事実が認められる。

3  (証拠略)、並びに原告本人尋問の結果によると、被告の就業規則二五条は「病気…によって欠勤する場合には予め所属長の許可を受くべきこと、やむをえない場合は速やかに診断書を提出すべきこと」と定めており、原告は右規定を了知していたことが認められ、右事実に前述の二1(一)ないし(四)の認定事実を総合すると、抗弁2(三)の事実を推認することができる。

4  そして、(人証略)によると、右就業規則二五条は、ミキサー車運転手が欠勤した場合、代替運転手を確保する必要上、その欠勤予定期間を正確に把握するため病欠の場合には速やかな診断書の提出を強く求めていると認められる(右認定に反する原告本人尋問の結果は採用しない。)ことに照らすと、前述のとおり原告の妻が被告に対し、原告の欠勤を電話連絡したことは原告の欠勤が、就業規則上、無断欠勤であると解することの妨げにはならないというべきである。

5  そうすると、原告は昭和六〇年一〇月七日から同年一一月二七日まで五二日間にわたり無断欠勤したものと認められ、右行為は就業規則五二条三号、五三条三号に該当するので、本件抗弁(本件解雇)は理由がある。

三  そこで、再抗弁1(事前協議条項違反)につき判断する。

1  (証拠略)及び原告本人尋問の結果によれば、再抗弁1(一)の事実が、また、原告本人尋問の結果によれば再抗弁1(二)の事実が各認められる。

2  なお、被告は、懲戒解雇は被告の専権事項であるから、本件労働協約に定める事前協議の対象とならないと主張するが、右条項の文言に徴し、採用することはできない。

四  そこで更に、再々抗弁につき判断するに、(人証略)によれば、被告は同五九年八月一日本件組合に対し、本件労働協約破棄の意思表示をしたことが認められるので、結局、再抗弁1は理由がない。

五  次に、再抗弁2(不当労働行為)につき判断する。

1  再抗弁2(一)の事実は当事者間に争いがない。

2  成立に争いのない(証拠略)並びに原告本人尋問の結果を総合すると、再抗弁2(二)(1)、(3)、(5)の各事実並びに同(2)の事実のうち、被告は、同五三年七月ころ余剰人員が生じたとして原告を解雇したが、本件組合による解雇撤回闘争により、同年一一月ころ、右解雇を撤回し、原告は職場に復帰したこと、そのころ被告の従業員の大半が本件組合に加入したこと、同(4)の事実のうち、本件組合は同五七年一一月に時限ストライキを行ったこと、被告はこれに対し、受注を拒否し従業員に仕事を与えず、同年末一時金及び同年一二月分の給料を支払わず、同年一二月二一日に右金員の仮払いを認めた仮処分決定がなされた後も右支払いをせず、同五八年一月一五日ころから同年四月六日ころまでロックアウトを行ったこと、同(6)の事実のうち、原告は、他の組合員と共に本件組合の組合活動に参加し、右各闘争に関与したことが認められる。しかしながら、原告が、右各組合活動及び各闘争において、如何なる行為をなし、どの程度重要な役割りを果たしたかについて具体的な主張・立証はない。

3  かえって、原告は、前記認定のとおり、同六〇年二月から三月にかけても無断欠勤したため出勤停止処分を受け、正常な就労を約して復帰しながら、同年一〇月七日から又もや無断欠勤を繰返したのであって(〈人証略〉によると、本件解雇は、右事情を総合、考慮してなされたと認められる)、原告には、組合活動の有無を問わず就業規則五二条、五三条に該当する懲戒解雇事由があるといわざるを得ない。

そうすると、本件全証拠によっても、本件解雇が、不当労働行為であると認めるに足りず、再抗弁2も理由がない。

六  結論

以上の事実によれば、本訴請求は理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 蒲原範明 裁判官 土屋哲夫 裁判官 大竹昭彦)

就業規則(抜粋)

第21条(自覚と責任)

従業員は会社の一員として自覚と責任に徹し、業務に精励すると共に会社の定める諸規程を守り、相互に協力して明るい職場を築くよう努めなければならない。

第23条(出社の拒否退社の強制)

従業員にして会社内の秩序を乱し、またはそのおそれがある時は出社させない時があり、又は退社させることがある。

第52条(懲戒処分)

次の各号の何れかに該当する時は懲戒処分する。但し情状に依り訓戒に留めることができる。

(1)会社の諸規程に従は(ママ)ないとき

(2)正当な理由がなく遅刻、早退又は私用外出が多いとき

(3)正当な理由がなく無断欠勤が多いとき

(4)就業時間中許可なく自己の職場を離脱したとき

(5)勤務に関係する手続その他の届出を怠り又は詐ったとき

(6)業務上の怠慢に依り失態があったとき

(7)濫りに会社の職制を中傷し又は反抗したとき

(8)許可なく社内で演説、集会、示威、貼紙、印刷物の配布、其の他これに類する行為のあったとき

(9)火災水害その他非常災害が発生し又はそのおそれがある場合之に対する防止の努力を怠ったとき

(10)会社の所有物を粗略に取扱い損害を与えたとき

(11)会社の秩序、風紀を著しく乱す行為があったとき

(12)その他前各号に準ずるような不都合な行為があったとき

第53条(懲戒解雇)

次の各号の何れかに該当する場合は懲戒解雇とする。

(1)故意又は重大な過失に依り業務上重大な失態があったとき

(2)正当な理由がなく就業を拒んだとき

(3)無断欠勤二〇日以上に及んだとき

(4)懲戒処分になっても、それに服する意志が認められないとき

(5)懲戒処分を受けた者が一年以内に更に懲戒に該当する行為があったとき

(6)重要な経歴を詐り又は詐術を用いて雇用されたとき

(7)許可なく他に就職し又は自己の営業を行ったとき

(8)社内で暴行、脅迫、傷害その他これに類する行為のあった時

(9)会社の秘密を洩らし、又は洩らそうとした時

(10)他人の物を窃取し又はそれを企てたとき

(11)業務に関し不正不当に金品其の他の授受をしたとき

(12)故意又は重大な過失に依り会社の設備機械器具等を破損し滅失した時、又は重大な災害事故を発生させたとき

(13)会社の所有物を私用に供し、又は窃取し若しくは横領したとき

(14)会社の信用、体面を傷つけるような行為があったとき

(15)其の他前各号に準ずる不都合な行為があったとき

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例